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博士の愛した映画

潜水服は蝶の夢を見る


潜水服は蝶の夢を見る LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY 上映時間 112分 製作国 フランス/アメリカ 公開情報 アスミック・エース 初公開年月 2008/02/09 ジャンル ドラマ/伝記 HP 監督:ジュリアン・シュナーベル 出演:マチュー・アマルリック     エマニュエル・セニエ

総合:★★★★ 内容:★★★☆ 俳優:★★★★ 映像:★★★★☆ 感想:独創的・衝撃的・元気になる フワフワと前向きに生きる力が湧いてくる映画。 まず冒頭から前半までにわたる映像の描かれ方に驚き。 身体全体の自由を奪われた「ロックト・イン・シンドローム」の主人公ジャン=ドミニク・ボビー。 彼から見た視点というのが、まるで彼の頭の中にいるかのように、主人公の一番の理解者になったつもりで、思わず一緒になって瞬きをしてしまう。 潜水服や蝶に例えるその言葉の選び方やイマジネーションのセンスは、さすがELLEの編集長を思わせてくれる。 主人公の頭の中で語られるフランス語もとても心地よくて、映像とあいまって、フワフワとした夢の中で飛んでいるような気分にさせてくれる。 また映像だけでなく、主人公を演じるマチュー・アマルリックの眼だけの演技も凄いの一言。 試しに自分でもやってみたけれど、眼だけで演技するのはかなりハード。 個人的には、涙を流すようなぐっとくる感動はこなかったのだけれど、でも、こういう1人の人間性や心情が深く色濃く表現されている作品は好き。 難病をテーマにした作品は、泣かすための典型的な感動作であったり、比較的重い作品になりがちなところ。 でもこの作品では、もちろん絶望感も描かれてはいるけれど、不思議とそれを感じさせない穏やかな良さがあり、お涙ものの感動とはまた違った、人間の生きる力強さに感銘を受ける。 「僕はもう自分を憐れむのをやめた」という言葉がとても印象的。 こんな状況にもかかわらず、思わず声にだして笑ってしまうユーモラスなシーンが多く、主人公の前向きな姿勢に素晴らしさを感じました。 そして、主人公の視点からの言葉と映像を通して、ありのままの感情や欲望や想像が包み隠さず素直に表現されているところが、生きる人間としてとてもリアル。 息子として父親との関係、父親としての子供達への想いを主軸に、男として愛人や妻や女性、そして友人など、彼の人生を彼とともに巡っているような気にさせてくれる。 ゆっくり流れる走馬燈のように人生を見つめ直し、想像力と左眼の瞬きで言葉を紡ぐジャン=ドミニク・ボビーという1人の人間の内面世界がストレートに伝わってくる映画でした。 彼が瞬きだけで綴った原作が読んでみたくなりました。