地獄でなぜ悪い
「♪全力歯ぎしりレッツ・ゴー。ギリギリ歯ぎしりレッツ・フライ」
この歌が頭から離れない。
そんなCMから始まるこの映画。
「冷たい熱帯魚」「恋の罪」のサスペンスや「ヒミズ」「希望の国」とドラマものが続いていた園子温監督だが、今回は一転してコメディ作品。
絶妙なキャスティング
「冷たい熱帯魚」のでんでん、「ヒミズ」の染谷将太、二階堂ふみなど、役者の演技を引き出してきた監督。
今回もキャスティングが絶妙。そして、俳優達の演技も最高!
肝の据わった武藤親子
武藤組組長を演じる國村隼は、ヤクザの組長として言うことなし。
女を変えながらも、最終的に自分の命を守り服役した妻への想い。
自分が無謀なことをやろうとしていることを認識しつつも、義理を通してやろうといい、子分にも情に訴えかけて、納得させてやる仁義の熱い男。
親分としての凄みと怖さ、一本筋が通ったところ、優しさが感じられる。
そして、その妻を演じる友近。
極道の妻として、序盤を盛り上げてくれる。
肝の据わった目が印象的で、ある意味誰よりも怖いかもしれない。
今回は、露出も多くセクシー担当。
その存在感と演技は、いろんな人々をを惑わし、かき乱すだけの魅力炸裂!
そのかっこいい姿に思わず惚れる。
巻き込まれる個性的な人々
対立する池上組組長を演じる堤真一。
着物姿が様になり、JAC出身だけに殺陣もビシッときまっている。
今回は、そんな組長としてのかっこいい姿と、「俺はまだ本気出してないだけ」のようなおとぼけキャラ、おちゃめな一面とのギャップがすごく笑える。
ひょんなことから巻き込まれる公次役の星野源。
今回も「箱入り息子の恋」のカエル状態以上に、地味で一途で気弱でボロボロ。
しかし、ミツコへの想いが起こさせる行動は、誰よりも衝撃的な映像。
映画バカ平田を演じる長谷川博己。
ある意味園子温監督の分身となる役どころ。
自分の世界観と映画への熱い想いをまくし立てながら語る姿、妄想、瞬時の計画プラン、ヤクザも説き伏せてしまうその統率力。
その姿は、「鈴木先生」ともいうべき「平田監督」。
そして、渡辺哲、神楽坂恵、でんでん、つぐみなどいつもの園子温ファミリーも脇役ながら出演。
映画への狂気的な愛
「深作警察」「マキノ通り」の名も見られ、任侠ものへのオマージュも感じられる。
一方で、血みどろ地獄に、黄色のトラックスーツ、國村親分とその末路は、「キル・ビル」を思い出させる。
35mm、8mm、ビデオカメラと変遷していく時代にありながら、35mmフィルムへの憧れとこだわり。
「俺は、将来、永遠に刻まれる一本を撮る。それを撮れたら死んでもいい!」
「俺は金のために映画なんて作る気はない。そんなことするのは、日本映画を悪くするバカどものだ!」
監督が無名時代に描いた物語だけに、当時の熱い想いが平田を通じて、ひしひしと伝わってくる。
あくなきまでの映画への思い、いい画がとりたいという思い、そしてその画が撮れた喜び。
ここまで狂気じみた映画への愛が、いつもおなかいっぱいにさせてくれる園子温作品の源流ということを改めて感じさせてくれる。
そして、ラストシーンは、現在の園子温監督自身につながっていることを意味しているのかもしれない。
コメディになっても、園子温監督らしさが感じられるおなかいっぱいの作品でした。
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