共喰い
物語
第146回芥川賞に輝き、当時「もらっといてやる」発言で、時の人となった田中慎弥の同名小説の映画化。
「あの男の子どもはあんた一人で十分じゃけえ」
父と息子の話であり、またその男達に翻弄されながらも強く生きていく女性たちの話でもある。
昭和の時代、そして地方という情緒感と性表現があいまって独特の世界を醸し出している。
本能のまま生きる父、円
女性に暴力をふるうことで興奮する性癖を持った父、円。
よい父親とは言えないが、決して子供には手を挙げず、息子へすり寄る一面もあり、性癖の悪い父親という一面以外は一見まともである。
相手が妊娠したら殴らなくなることや、必死に琴子を探すあたり、自分の子供への執着心や、自分の分身ともいうべき自己愛が感じられる。
父との血縁に苦しむ息子、遠馬
そんな男の血を引き継いでしまった息子、遠馬。
いつしか自分も父親のように暴力をふるってしまうのではないかという恐怖。
父親を否定しながらも、「血」という逃れられない関係との間に苦しみながら、成長していく。
父親を否定しつつも、父親の釣りにつきあうのは、母親と家族3人でいられるからという、遠馬の気持ちが、彼の心の中の本心が垣間見えて切ない。
女性たちへのジレンマと羨望
父親の過去の女である元妻、仁子。 現在の女、琴子。 息子の彼女、千種。
暴力から逃げられるのに、暴力をふるわれても逃げようとしない女性たち。
そんな女性たちと違い、逃げたくても、逃れられない、切っても切れない「血」という関係。
なんで、逃げないんだというジレンマ、逃げていけるうらやましさ。
そして、アパートの女性を共有することで、父親との関係がつながりを持ち、理性では父親を否定しながらも、本能的には父親の血を感じてしまう遠間の呆然とした姿が衝撃的。
眼差し
主人公遠馬を演じる菅田将暉は、繊細で女性を気遣う一面と、本能的にかっとなってしまう鋭い目つきの2つをあわせもつ。
四角い顔と髪型で、父親役の光石研とも似ているし、原作者の田中慎也とも似ている気がする。
そして、菅田はじめ、それぞれのキャストの眼差しが印象的。
父親を激しく軽蔑する遠馬の目つき。 遠間に抱かれながら、見つめる千種の眼差し。 遠間に優しく語る殴られた琴子の目のあざ。 性欲のまま本能に従って生きる円のいやらしい視線。 後悔から決着へと変わる仁子の眼差し。
1つの時代の終わり
原作にはないという、彼女たちのその後の展開。
昭和の時代が終わり、平成へ。 それは、男達の暴力にだまって耐えるだけの女性の時代は、終わったことをつげるように感じられた。
血から逃れられない苦悩と自己否定の狭間で、父親とは異なる道へ成長していこうともがく遠馬の心情描写が見応えのある映画でした。
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