夏の終り
これぞ日本映画
全てを語らず,言葉少なで行間を読むような映像.
時間軸がいろいろ変わるので,言葉少なだけに少々分かりづらいところもあるものの、 演技と雰囲気で伝える、これぞ日本映画.
恋から愛へ、愛から習慣へ
「だって好きなのよ!」
「もう恋なんてない.」 「じゃ,何があるのさ?」 「愛しているの」
「8年という習慣は重いのよ、その“習慣のせいで別れられない」
知子が涼太に語るこの言葉がとても印象的. そして,本妻はもっと長い習慣で結ばれていることを冷静に語る知子が切ない.
「ちょっとでいいの.お見舞いに来て.」 そして,寂しさから情熱を求めてしまう知子の電話のコードをいじりながらの描写がエロい.
艶やかさと清々しさ
知子を演じる満島ひかりは,全身全霊で演技しているのが伝わってくる.
ただ,原作では38歳ということなので,彼女は線が細く,もともと年齢よりも若くみえるので,夫と子供を捨てた女性には見えないのが残念.
小林薫との年齢差や,実年齢では年上の綾野剛が年下に見えて,少し気になる. もう少し円熟で艶やかな女優だと映画の雰囲気がまた変わったのかも知れない.
しかし,着物姿も新鮮で,どろどろ感よりも,くっきりさっぱり爽快に生きていくラストにかけての印象がより強いものになったようで好感がもてる.
安定と情熱
小林薫も,着物が似合っていて,「深夜食堂」にも通じる,何も言わずすべてを受け入れてくれるような静かなたたずまい. その心の奥底には,知子だけに見せられる悲しみが見え隠れする大人の演技に惚れ惚れする.
綾野剛演じる涼太は,知子の全てを手に入れようとしても,自分のものにならない心の叫びが痛い. それは,知子が遊び人の男で,涼太がまるで未練がましく嫉妬深い女性のよう.
綾野剛のあの鋭い目つきが,知子への狂おしいほどのまっすぐな気持ちが伝わってきて,ここまで男を狂わす女性とは一体と思わずにいられない.
習慣だけでは物足りなく,情熱を求めてしまう女の業に苦しみながらも,悪の習慣を断ち切り,前向きに生きていく女性として,清々しい気持ちになれる映画でした. [cft format=0][embedvideo id="PO-EIQgSbJ4" website="youtube"]