Dr.Cinema

博士の愛した映画

さよなら渓谷

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「何でもしてくれるなら,私より不幸になってよ!」

序盤,愛し合う二人の姿には,これから描かれる二人の関係からは,想像もできない. 真木ようこの抜群のスタイルと艶やかさが,夏の暑さとあいまって,非常にエロい.

いつ過去の事件がばれないかという不安感,そしてばれた際の偏見や中傷. 一方,人の人生を変えてしまったという自責の念.

忘れ去られる1つの事件の被害者と加害者としてではなく,一人一人の人間としてみた時, 事件をきっかけにそれぞれがその後の人生に苦しみもがく姿が過ちの大きさを感じさせる.

どうしてもばれてしまう現実の前では,その不安から逃れられる唯一かつ非常に合理的な関係というのは, 頭ではわかっていも感情的には理解しがたく,中盤の二人の経緯に興味がそそられる.

自分を受け入れてくれる唯一の存在という想い. こんな自分にさせた相手への恨みや怒り. 現在と過去が交差しながら,2つの相反する彼女の想いが交互に伝わってきた.

そして,つらい過去から逃れるのではなく,真っ正面から受け入れ「一緒に不幸になる」という決意は, そんな二人の折り合いどころだったのかもしれない.

彼女がとった行動には,一緒に暮らすうち幸せを感じ,許せない相手を許してしまう自分への戸惑いや心の揺れが感じられた. そして,そんな彼女の戸惑いに区切りをつける彼の行動や最後の言葉には,決意の揺るぎなさと力強さがあふれ, 今度こそ幸せになってほしいと思わずにいられなかった.

恨み辛みから安らぎへ,贖罪から愛情へ,人間の本質が静かにじっくり描かれた作品でした.

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