Dr.Cinema

博士の愛した映画

嘆きのピエタ

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金とは?人生とは? 映画全体に,愛,金,性という人間の血生臭さい本質が漂っている作品.

家族もなく,生きるために動物を殺すかのように,借金の取り立てで淡々と追い詰めていくカンド. 家族のために借金をし返済にもがき苦しむ男達,そして大切な息子や夫を奪われて悲しみ,怒り,恨みにふるえる残された家族.

取り立てられる者と取り立てる者. 天涯孤独で愛を知らないが故に,人らしい感情をもたず,「金で人をためす悪魔」のようなカンドを際立たせていた.

そこに,突如現れた母と名乗るミソン. 金に翻弄されて枯れてしまった人々とは違う,母親でありながら,何事にも動ぜず芯の通った決意と艶やかさと色っぽさが印象的.

与えられたことのない愛に戸惑い警戒するカンド. その姿は,30年間1人で生き抜いてきた男の寂しさと不器用さを物語っていた.

そして,母の愛に触れるうちに,今までの時間を取り戻すかのように人としての感情を取り戻し,相手を想えるようになる姿が,彼が生まれ持った悪魔ではなく,環境がそうさせた被害者であることを感じさせる.

愛を知り感情をもった上で,一度与えられたものを奪われる苦しさは,筆舌に尽くしがたい. 愛に飢えた獣が,愛を与えられ,飼いならされた時,獣としてはもう生きられない.

母息子の生活から,カンドへの慈愛の念へと駆られていくミソンの涙ながらの言葉が印象的.

単なる復讐劇として描かれるのではなく,ピエタという言葉が指すとおり,哀れみ,慈愛の念が描かれているところが,人としてのもろさや希望が感じられた作品でした.

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