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博士の愛した映画

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

嵐で船が沈没し、1つのボートで、少年パイがトラと漂流することに。 トラは命を奪うのか、生きる希望を与えるのか・・・。

前半、鮮やかな色彩と神秘的な風景が印象的なインドの映像とともに、幼少時のいじめの克服、パイの宗教観、そして猛獣とのつきあいなどパイの原点について触れられる。 ヒンドゥー教、キリスト教イスラム教の3つを尊ぶパイは、仏や神をそのときに応じて、何かを信じる日本人の感覚に近いかもしれない。

大海原という大自然の中で危険にさらされ、さらに常に命を狙われている緊張感。 この極限状態で感じられる生きることや神という壮大な世界観。

トラとの対峙を通して、当初おびえ逃げていたパイが、試行錯誤で徐々に立ち向かい、克服し共存する過程は、ある意味自分の心の葛藤と克服にもとれる。

この作品では、大自然の外なる世界と、心の葛藤という内なる世界が、同時に描写されている点が素晴らしい。

もう一人の主人公であるリチャード・パーカーという名のベンガルトラは、水上シーンは全てCGというから驚き! 「ナルニア国物語」のライオンの迫力、「猿の惑星: 創世記」での猿の様々な表情とリアルな動作を兼ね備え、そこに確かに存在し、私たちに襲いかかってくる。

そして、海の描写。 時に鏡のように穏やかで美しく、時に全てを飲み込む大嵐となり、そして命の恵みを与える海となる。 海上のシーンが多いが、海の表情がとても豊か。 やはりこの作品は、大画面で3Dで観てこそ、その迫力と壮大な世界観が伝わってくる。

「人生とは、手放すということ」「ただ手放していく時に、別れを告げられないのは寂しいこと」 家族をはじめ、すべてを失い227日間漂流し、成長した少年の言葉はどれも重い。

起こったことは起こったこととして淡々と過ぎていき、ことの解釈次第で魅力的なものにも残酷なものにも感じられる。 そのどちらがいいかという問いに対して、視点を変えることで悲しい現実をとらえ直す重要性を感じさせてくれる。

もう一度違う視点から観なおしてみたい作品です。