Dr.Cinema

博士の愛した映画

草原の椅子

バツイチで娘と2人暮らしの主人公遠間が、ひょんなことから育児放棄された少年圭輔の面倒をみることになったが・・・。

娘を心配する父親である一方で、独身の男でもある、佐藤浩市演じる主人公遠間。

「どがいに理屈が通っとても、人情のかけらもないもんは正義じゃないけぇ」を信条に、人情深いがプライベートや会社の問題で頭を悩ませる、西村雅彦演じる取引先カメラ会社社長の富樫。

骨董店を経営する、吉瀬美智子演じる篠原。 CMにそのままでてきそうな、和服が素敵なたたずまい。 だが、そんな彼女にも悲しい過去を持つ。

そして、親に育児放棄され、心に傷を負い、言葉もろくに話せなくなった圭輔。

彼らは皆、何かしら寂しさを感じ、愛に飢えているよう。 それぞれが、過去や現在の人生を悩み苦しみながら生き、求めるように出会い、そして圭輔という星をまわる恒星のように支え合い惹かれていく。

この世の最後の桃源郷といわれるパキスタンのフンザ、そしてそこにある山ウルタル。 いつしかそこが、彼らの心の草原になったのだろう。 過去の悪いものを埋め、新たな人生へと旅立つ遠間たち。 やはり旅や自然は、迷いや悩みを振り切らせてくれる。

現地の老人がつげる「正しいやり方を繰り返しなさい」という言葉。 実に当たり前のことだが、いざ実行しようとするとなかなか難しい。 複雑にしていたのは、自分自身という言葉に納得させられる。

圭輔のためを思いウソはつかず現実を直視し、砂漠を走る圭輔を、子供を崖におとして這い上がってくるライオンのように、ただじっと見つめる遠間の姿が感動的。

「草原の椅子」とは、人の生き方を暗示したもの。 ラストの風景は、そんな3人の生き方を暗示しているのだろう。

悪い過去を埋め、人生を見つめ直しに、旅に出たくなる作品でした。